農作業の現場では、日々の小さなミスを完全になくすことは簡単ではありません。しかし、「なぜミスが起きたのか」を個人の能力や注意力だけに求めてしまうと、同じ問題を繰り返してしまうことがあります。
今回は、「チェックシート」を活用してミスを減らした事例をご紹介します。
私たち農園たやでは、多品目の野菜を栽培・販売しています。出荷準備の工程では自動袋詰め機を使用していますが、野菜の品目ごとに包装袋をセッティングし直す必要があります。
この工程で問題となっていたのが、「袋の取り違え」でした。
包装袋のデザインが似ている野菜でミスが頻発
農園たやで使用しているモロヘイヤとツルムラサキの包装袋は、サイズや基本的なデザインが同じで、違いは袋に書かれた品目名だけです。さらに、出荷時期が重なることもあって、モロヘイヤの袋にツルムラサキを詰めてしまう、といったミスが頻繁に発生していました。

といった原因を想定し、「よく確認するように」と指導するにとどまっていました。
しかし、このような指導を続けてもミスは減らず、取り違えに気づかないまま出荷してしまい、取引先を巻き込む問題に発展したこともありました。
そこで、あらためて「人の注意力に頼るだけでは限界がある」と気づき、「仕組み」によってミスを防ぐ方法を検討しました。
チェックシート導入でダブルチェック体制に
そこで導入したのがチェックシートです。
袋をセッティングする際、作業を行う本人と、もう一人の作業者の2人で袋の品目を確認し、それぞれがチェックシートに名前を記入する仕組みにしました。さらに、2人分のチェックが完了するまで袋詰め作業を開始してはいけないというルールも設けました。
この取り組みによって、袋の取り違えは大幅に減少しました。
それでも起きた「取り違え」、原因の再分析
ところが、しばらくすると再び取り違えが発生しました。
チェックシートは正しく運用されていたため、「セッティング時のミスではない」と判断し、改めて工程全体を見直しました。そこで浮かび上がったのが、次の工程です。
袋詰め機では、うまく野菜が入らず、空のまま排出される袋(詰め損じ)が発生することがあります。この袋は廃棄せず、集めて棚に戻し、後日再利用していました。
問題は、この「袋を棚に戻す作業」の中で、別の品目の袋が混ざってしまう可能性があったことです。
そこで、袋を棚に戻す作業も工程の一つとして位置づけ、新たにチェックシートを導入しました。
どの品目の袋を、誰が確認して戻したのかを記録することで、工程と責任者の見える化を図りました。
この改善以降、現在に至るまで袋の取り違えは発生していません。
チェックシートは「低コスト」で「効果的」な対策
チェックシートの大きな利点は、特別な設備投資を必要とせず、すぐに導入できる点です。
そして何より重要なのは「確認すること」を個人の習慣ではなく、作業工程の一部にできることです。
人はどれだけ注意していても、一定の確率でミスをします。これは国籍や経験に関係なく、誰にでも起きることです。だからこそ、
といった仕組みが有効になります。
チェックシートの落とし穴
一方で、チェックシートの運用には短所もあります。
「チェックする」という工程がひとつ増えてしまう
確認して記入するという工程が増えるため、作業を一度中断する必要があります。さらに、2人以上でチェックを行う場合は、その分の手間も増えます。
そのため、チェックによって防げるミスと、増えてしまう負担のバランスを検討したうえで導入することをおすすめします。
チェックシートの運用が形骸化する可能性
忙しい日々の作業の中では、チェックシートへの記入を忘れたり、確認をせずに記入だけをしてしまったりするなど、運用が形骸化してしまう可能性があります。
農園たやでは、この形骸化を防ぐため、毎朝のミーティングでチェックシートの記入状況を確認しています。
前日のチェックシートを見ながら、
を全員で確認します。
毎日確認することで、「きちんと確認してから記入しよう」という気持ちが強まり、現場全体の習慣として定着していきました。
ミスをシステム改善のヒントに
外国人実習生がミスを起こすと「日本語が不慣れだから」と考えてしまうかもしれません。しかし多くの場合、問題の原因は別の部分にあります。
外国人実習生との協働において重要なのは、ミスを属人的な問題として片づけず、「システムの問題」として捉えることです。
今回の事例では、作業環境を見直し、誰でもミスに気づける仕組みを作ったことで、結果的に日本人を含めた現場全体のミスの削減につながりました。
また、「ミス」に対する認識も、「個人の能力や不注意によって生じるもの」から、「作業システムの不完全さによって生じるもの」へと変化しました。
起きてしまったミスは、システムを改善するヒントにもなり得るのです。
大切なのは、「ヒューマンエラーは必ず起きるものだ」と認識することです。
ヒューマンエラーは、起きることが前提なのです。
そのうえで、ミスが起きても重大な問題になる前に気づける仕組みを整えることが、円滑な作業環境づくりにつながります。
外国人材に合わせた改善は、決して特別な対応ではありません。現場全体の質を高める取り組みでもあるのです。


