外国人材との協働において、翻訳アプリは非常に便利なツールです。
特に近年は音声認識やAI翻訳の精度が大きく向上し、以前より自然なコミュニケーションができるようになりました。
しかし、実際に使ってみると、
「意図した内容と違う翻訳になっていた」
「細かい指示がうまく伝わっていなかった」
という経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
翻訳アプリの音声認識精度は向上していますが、まだ「翻訳アプリに適した話し方」を意識する必要があります。
今回は、翻訳アプリの仕組みや、日本語特有の特徴を踏まえながら、「伝わりやすい指示の出し方」について考えてみます。
まずは実際に試してみましょう
まず、以下の内容を、皆さんの職場の忙しい朝の雰囲気や、指示を聞いているインドネシア人実習生の姿を思い浮かべながら、口頭で指示するつもりで翻訳アプリに話しかけてみてください。
(Google翻訳を利用する場合、マイクボタンを押して話すことで音声が認識され、話した日本語と翻訳後の外国語の両方が表示されます。まずは、どのような日本語として認識されているのかを確認してみてください。)
【作業者】
・アリさん(リーダー)
・デヴィさん
・ムハンマドさん
【場所】
ビニールハウス10号
【注意点】
・株間や使用農薬などの詳細は、リーダーのアリさんの指示に従う
・定植作業が終わったら電話で知らせる
・今日から暑い日が続くため、ビニールハウスの天窓を開ける
・余った苗の保管場所は未定なので、担当者から電話があり次第アリさんに伝える
いかがでしたか?
どれくらい正確に音声認識されたでしょうか。
実際に試してみると、話した言葉が意外な単語として認識されたり、長い文章の後半が正しく認識されなかったりすることがあります。
翻訳アプリは「単語を予測」している
現在の翻訳アプリは、単純に音を文字へ変換しているだけではありません。AIを利用し、音声認識の精度を高める仕組みが取り入れられています。
翻訳AIはまず、人間の声を細かな「音(音素)」として認識します。そのうえで、「認識された単語の次にどのような単語が続く可能性が高いか」を膨大な文章データから予測しています。
つまり、
を組み合わせて、もっとも「それらしい文章」を作り出しているのです。
そのため、日本語特有の曖昧な表現や、専門用語の多い文章、長い文章では誤認識が起こりやすくなります。
音声認識されやすい話し方のポイント
Google翻訳などの音声認識機能を利用する場合、特に重要なのは次の5点です。
-
一文を完成させて話す
-
一文を短くする
一文が長くなると、文の構造が複雑になり、誤認識されやすくなります。
特に、
・「〜なので」・「〜しながら」・「〜したら」を多用すると、翻訳アプリは文の構造を把握しにくくなります。
一文は短く、簡潔にすることを意識しましょう。
【悪い例】
「リーダーのアリさんの指示を聞きながらトマトの苗を植えて、終わったら私に電話してください。」【良い例】
「トマトの苗を植えてください。」
「リーダーのアリさんの指示に従ってください。」
「作業が終わったら私に電話してください。」 -
認識の難しい単語は言い換える
どうしても正しく音声認識されない場合は、別の言葉に言い換えることを検討しましょう。
【例1】
「葉物の収穫をしてください」が「刃物の収穫をしてください」→「葉物野菜の収穫をしてください」→「葉っぱの野菜の収穫をしてください」【例2】
「場所は10号ビニールハウスです」が「場所は15ビニールハウスです」→ 「場所は10番ビニールハウスです」翻訳アプリのAIは、一般的によく使われる単語を優先して認識する傾向があります。そのため、専門用語や固有名詞は正しく認識されにくい場合があります。【例3】
「苗を定植してください」が「苗を定食してください」→「野菜苗を植えてください」【例4】
「天窓を開けてください」が「転送を開けてください」→「ビニールハウスの屋根の換気の窓を開けてください」 -
一文の中で主体を変えない
日本語は主語を省略したり、文章の途中で主体を変えたりしても成立する言語です。しかし、翻訳AIにとっては理解しづらい構造になります。
例えば、
「余った苗の保管場所が未定なので、担当者から電話があり次第アリさんに連絡します。」には、
・保管場所・担当者・私という複数の主体が含まれています。
そこで、
「余った苗の保管場所は、後で私がアリさんに連絡します。」のように簡潔にすると伝わりやすくなります。
-
フィラー(無意識の言葉)を減らす
人は会話中に、
・「まあ」
・「えーと」
・「あの」
などの言葉を無意識に挟むことがあります。
これを「フィラー」と呼びます。
しかし翻訳アプリは、こうした言葉も単語として認識しようとします。
実際の作業指示では、
「まあ、量が少ない時は〜」
が、
「マリオが少ない時は〜」
と認識されたことがありました。
フィラーの「まあ」が後ろの言葉とつながり、誤認識につながった例です。
翻訳アプリを使いやすい職場づくりも大切
最後に重要なのが、「翻訳アプリを使いやすい雰囲気づくり」です。
実習生側からすると、日本人スタッフが話している途中でスマートフォンを取り出し、翻訳アプリを使うことには大きな心理的ハードルがあるようです。
という遠慮や過信があるためです。
そのため、日本人側から、
と促すことが大切です。
農園たやでは、毎日の朝礼で園主や農場長がスタッフ全員に日本語で話をします。このとき伝えたいのは、その日の作業内容だけではありません。農園の未来への思いや大切にしている価値観など、さまざまなことを共有しています。
外国人実習生にも少しでもその思いを伝えたいと考え、翻訳アプリの利用を推進しています。その結果として、翻訳アプリを使いやすい雰囲気も少しずつ職場に根付いてきたと感じています。
コミュニケーションにおいて、言語も翻訳アプリも一つのツールに過ぎません。
母語や文化の異なる人同士が、「情報を正しく伝え合う」という目的を共有する以上、相手の日本語能力だけに頼るのではなく、使えるツールを積極的に活用しながら、情報伝達の精度を高めていくことが大切ではないでしょうか。




