2022年9月にインドネシア人実習生(在留資格:特定技能)であるダダンさんが鼠径ヘルニア(脱腸)の手術のために1週間ほど入院しました。ダダンさんへのインタビューを通して、実習生目線で見た、日本での入院から得られた経験や実情を聞き取ります。インタビューをもとに、受け入れ農家側のサポートや配慮について考えます。
ダダンさんは入院時点で日本滞在歴3年7カ月目、日本語能力試験N3を持っている実習生です。日常生活においての日本語でのやりとりは問題なく行えるレベルです。そんな彼にとって日本での入院はどのようなものだったのでしょうか。ダダンさんへのインタビューを通して、日本での入院から得られた経験や実情を聞き取ります。
入院までのプロセス
2021年1月、福井県は大雪に見舞われました。農園たやでもハウスの倒壊を防ぐために、みんなで必死に除雪を行いました。この時、ダダンさんが雪かきをしているとお腹に力が入った際に違和感がありました。お腹の違和感については園主に一度相談し、2月に予定している定期健康診断でお医者さんに聞いてみるようにアドバイスをもらいました。
定期健康診断の時にお医者さんにこの症状について相談したところ、鼠径ヘルニア(脱腸)と診断され、写真を見せてもらいながら説明を受けました。しかし、緊急性はないとの判断だったようで、これくらいは大丈夫と言われました。
その後、経過観察していましたが、力を入れると痛みがあり、鼠径部に膨らみが確認できる状態だったため、もう一度病院を受診することにしました。
病院から緊急性はないが、悪化した場合に手術の必要があるとの説明がありました。ダダンさんは出来るだけ早く治療したかったので日本で手術することを決心しました。
ダダンさんへの質問内容
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立崎
日本での手術を決めた理由は?(費用面、帰国時期等の兼ね合い)
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ダダンさん
費用面において、日本はすべての物価が高いため手術費も高額だろうと想像していました。少し高くても日本での貯金から支払うことが出来る額であれば手術を受けたいと思っていました。健康保険の高額療養費制度を使うと手術費は5万程度であることが分かり、安かったので安心しました。
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立崎
どのようにして病院を選びましたか?(情報、交通手段)
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ダダンさん
手術の病院は健康診断を受けた病院とは違う病院にしました。来日してすぐにデング熱を患った時に利用したことのある大きい病院にしました。病院へのアクセスも駅から近いので自転車と電車で自分一人でも行くことが出来ます。(入退院時は日本人スタッフが車で送迎をしました。)
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立崎
日本で入院してみてどうでしたか?(日本語でのやりとり、入院生活)
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ダダンさん
日本語のやりとりに難しさは感じませんでした。分からないことは自分で聞くことが出来るし、
お医者さんからの説明が難しい場合は看護師さんが優しい言葉に置き換えて説明してくれました。
入院生活においても特に不便はありませんでした。食事についても事前に食べられないものを伝えることが出来ます。お祈りの場所は病院にはないですが、ベットの上や床でもすることができるため問題ありませんでした。部屋でwifiを使うことが出来るので、連絡も自由にとることが出来ました。
学びや反省、読者に特に伝えたいことは?
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彼らの能力でどこまでが出来て、どのような困難があるのか
ダダンさんへのインタビューから彼の日本語能力では病院側と十分コミュニケーションがとれており入院生活においても不便は感じていない印象を受けました。ダダンさん自身、自分で何でもできて当たり前という意識があるようです。
手術に関してのお医者さんからの説明や、入院時に必要な書類(外国語対応していない)は、ダダンさんの日本語能力では難しいため、インドネシア語ややさしい日本語で説明して理解してもらう必要があり、インドネシア語が出来る日本人スタッフがサポートしました。
大変そうだから手伝ってあげたいと思うこともありましたが、こちらからのサポートはダダンさんの理解の難しい部分の通訳・翻訳に留め、できるだけ本人の判断に任せました。 -
受け入れ側としてのどのようなサポートが必要か
受け入れ側としてのサポートを考えたときに、仕事への復帰時期について農園とダダンさんとの間で認識に違いがあったことが気になりました。退院後数日は自室で安静、その後1~2週間は無理のない範囲の軽い作業をしてもらいながら体を慣らしていきました。2週間後に再診があるため、経過に問題なければ受診後から通常業務に復帰してもらう算段をしていました。しかし、ダダンさんに確認してみると、まだ痛みがあり、早く歩くことができないから通常業務に戻るのはまだ難しいとのことでした。農園としてはいつ仕事に戻れるかの目安が知りたかったので病院へ直接電話で問い合わせてみることにしました。病院によると、経過は良好で、重いものを持ったり、力が入る作業は避けて、いつも通り仕事をしてもらって構わないだろうとのことでした。
病院からダダンさんには不安を与えないように、理解できるようにできるだけ簡単な日本語を使用しますが、病院から受け入れ農家に対しては症状や経過、仕事への復帰時期の目安など自ずと情報量は多くなります。ダダンさんと農園側との病院から得られる情報の差から生じた問題のように感じました。ダダンさんが自分で出来ることを活かしつつ、入院時期や仕事への復帰時期等、ダダンさんが判断するには難しい部分は日本人スタッフが同行する、病院と直接やり取りをするなどのサポートが必要であると感じました。
※農園たやではインドネシア語ができるスタッフが数名いるため自社で対応したが、通常は通訳、病院同行等のサポートは監理団体が担うことになっています。